これまでの、消費者の多段階意思決定プロセスについての独立した研究や、売り手側からの説得過程・手段に関する研究、あるいはオンライン・ショッピング・サイト設計についてのさまざまな議論などに対し、本研究はこれらの諸研究を消費者の多段階意思決定プロセスとして捉え、統一的な議論ができるような理論的枠組みを提供しようとするものである。そこで、まず効用理論をベースとした多段階意思決定プロセスの理論モデルを構築し、そのモデルに基づいて説得プロセスのデザインをするというアプローチをとった。そして、消費者選好の異質性や製品空間における競合製品の分布について議論し、その分布の分散の大きさと前倒しで提示すべき情報量との関係を明らかにした。 一方、効用理論からは説明が難しいが重要な消費者行動として「意思決定のフレーミング」の問題を取り上げた。これは、電子市場における情報提示問題および消費者行動について議論する際に、避けては通れない重要な問題を含んでいるからである。そして、擬似的なオンライン・ショッピング環境のもとで、情報の提示方法をいろいろと変化させて消費者反応を測定するという実験をいくつか行った。その結果、フレーミング効果が安定して観測されるとともに、極端の回避や対比効果などの影響による参照点の移動状況も観測された。そこで、これらの結果を定量的に記述するために、プロスペクト理論をベースに、極端回避の効果を取り込んだ確率的選択行動モデルを構築した。モデルの推定結果によると、ゲインに対するロスの評価が約1.25倍に拡大されており、これが実験で用いたダウン・グレード・フレーミングによる価格提示法の優位性の原因であることも確認できた。
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