研究計画に従い、今年度は既存研究のレビューを行い、理論的課題を抽出すると共に、仕入れ取引と販売取引という二つの取引の連動性概念モデルの構築を試みた。卸売段階を分析対象として想定し、一つの取引当事者が仕入れ取引と販売取引の両側面に対して、どのような変動・変化を行い得るかを考察している。まだ理論的には精緻化されてはいないが、従来の流通系列化、垂直的統合、製販統合、さらにはSPA等にみられる流通チャネル上の垂直的取引連鎖の形態について、一つの説明枠組みを提案しようという努力の途上である。具体的には、取引費用の低減化と取引先の変化の両軸からみて、仕入れ取引と販売取引両者の取引関係が変化してゆくプロセスを確認しようとする。そして、その際にある種の連動性がみられ、それが阻害される場合には連動しないことになる。その場合には、その阻害要因がどういうもので、どのような条件でそれらが顕在化してくるのかを確認することが求められる。本年度の研究では、これらの説明枠組みの抽出のレベルまでに留まっている。次年度以降の研究では、これらテンタティブなモデルに対して、実証研究を進めてゆくことが、計画されている。この実証研究を通じて、さらなるモデルの精緻化が図られると共に、流通チャネルの変動に対する一つの指針が得られることを期待したい。卸売り段階を分析の対象にしたモデルではあるが、流通チャネル上に現れる取引・取引関係の変化を説明できれば、流通チャネル、さらにはマクロ的な流通システムの変化・変動に対する説明のツールになる可能性があると考えられるからである。
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