研究概要 |
本年度は,前年度から理論的な研究を引き続き行うとともに,それを踏まえて実態調査を進めた.理論研究では,起業者のビジネスモデルを顧客など外部の人々に受け入れてもらうために対話(ダイアローグ)を進めなければならないこと,および起業者活動を活発化するためには地域において優れた起業者の活動に関する物語を伝承しなければならないということに関して研究を行った. 日本での実態調査では,起業者活動を支援するインキュベーション施設のインキュベーションマネジャー(IM)に対して,どのようにして入居起業者を選択するのか,そして入居後ビジネスモデルをどのように精緻化し,変化させていくのかを中心に聞き取りを行った.その結果は,入居起業者の多くは,既存技術の改良あるいはこれまでとは異なる新たな技術を基にして,それを活かすためのビジネスモデルの構築を行っていること,さらに構築後の変化はあまり行われていないことが分かった.調査対象も非常に少ない上に入居期間も短い起業者を対象としたため,一般的なことは言えないが,技術主導型起業者では,技術に対する資源の投入量に比べてビジネスモデルの策定や改良に対してあまり投入がなされていないことが想定された.これから生じる問題は,技術的なものよりも,モデルの実現可能性をどのように高めていくかということである.特に,既存モデルとの類似性が低い場合モデル構築後の他企業との激しい競争は免れるが,顧客などからモデルに対する抵抗が生じるという問題があるが,それをどのようにして乗り越えるようとするのかに関してIMもあまり明確に認識していないようであった.海外の実態調査では,日本よりももう少しモデル自身への配慮が高かったが,やはり技術への関心が強いことが見いだされた.
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