研究概要 |
本研究の目的は,企業の報酬制度導入の規定要因および報酬制度の企業と従業員の双方への効果を実証的に解明することである.近年,多数の企業が経営環境の変化に適応し,競争力の維持・向上のため,人々を管理する新しい施策や制度を導入する傾向にある.すなわち,組織イノベーションとしての人材イノベーションを導入する企業が増加している. 本年度では主として,イノベーティブな報酬制度として「ファミリー・フレンドリー施策」をとりあげて研究を行った.第1に,ファミリー・フレンドリー施策導入の規定要因を実証的に分析するための準備作業として,1992年「育児休業法」制定以降のファミリー・フレンドリー施策の導入状況を労働省(現・厚生労働省)の報告書などを分析し,その問題点および課題を把握した.同省から「ファミリー・フレンドリー」企業として表彰された企業が導入しているそれらの施策の種類や独自的な運営などを概観した.第2に,ファミリーフレンドリー施策導入の規定要因を分析した.そのために先行研究のレビュー結果と,企業のファミリー・フレンドリー施策導入の現状を考慮し,ファミリー・フレンドリー施策導入モデルを構築した.モデル・テストのため,使用したデータは「報酬制度と雇用戦略に関する調査」から収集されたものである.分析結果により,モデルの妥当性が確認できたし,また実際的な理由や組織特性よりも制度的要因がファミリー・フレンドリー施策導入に強い効果を与えることが明らかになった.第3に,ファミリー・フレンドリー施策導入と高コミットメント仕事方式との関係を分析した.Osterman(1995)の理論的なフレームワークを使用し,上場企業(東京証券取引所)109社をサンプルにした.高コミットメント仕事方式を実施している企業ほど,ファミリー・フレンドリー施策を導入する可能性が高いという分析結果はOsterman(1995)の分析結果と同じであった.前述した研究成果の一部を『経営戦略研究』第1号,『産業経営』第33号に掲載した.
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