本研究は、日本的経営を情報共有モードという観点から捉え、日本の企業組織に特有の情報共有モードが、インターネットに代表される新しいITの登場とそれに伴う経営活動のグローバル化において、どのような問題を提示しているおり、日本的経営がどのような方向に転換されるべきかを検討するものである。研究方法としては情報共有モード、言語、ITの三つの概念をキー概念として、これらの相互関係を明らかにしながら、既存の理論の整理を試みた。さらに、企業インタビューや文献調査を通じて実証的に検証した結果、以下の知見が得られた。第一に、従来の日本的経営システムの中で醸成されてきた独自の情報共有モードは安定的ではあるが閉鎖性が強いため、組織や組織集団(系列など)が外部とオープンに情報結合を行うことを阻んでいる。インターネットはオープン・ネットワーク型の経営への転換を迫っているが、欧米諸国などと比較して日本企業はこの動きが緩慢であり、国際的な優位性が失われつつある。第二に、日本的な情報共有モードは日本語の特質や論理構造と表裏一体の関係にあり、独自の意思決定方法やコミュニケーション・パターンを生んでいる。稟議・根回しの制度や会議のあり方などがその例である。しかし、経営のグローバル化を推し進めて海外の情報や人材を広く活用していくためには、世界のビジネスの標準語となる英語を使った経営への転換が望まれる。日本企業は、日本的経営とグローバル経営の二者択一を迫られている。以上の発見事実を通じて、本研究の結論としては、バイリンガル経営を模索することを提案し、また、テレビ会議の例にみるように、マルチメディア化によってビジュアル情報が活用され言語情報を補完するようになれば、従来の日本的な情報共有モードのそれなりに普遍性を持つ可能性があることを示唆した。今後の研究では、言語論の見地から、言語と経営の関係を明気にするより精緻な理論の構築を目指したい。
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