本研究の成果は、つぎの3つの観点から明らかにしたことにある。 第1に、フィデュシャリー・アカウンティングの体系化に関する試論を提示したことである。 そこでは、21世紀型の会計としてマネーの委託と受託をめぐる関係-フィデュシャリー関係-を基礎とする経済システムをフィデュシャリー・キャピタリズムとして、そこに形成される会計の体系をフィデュシャリー・アカウンティングとして示している。その場合、従来、会計制度上、投資家として概括的に投資家一般として捉えられていた点を、会計における投資家像の変容を検討した点である。フィデュシャリー・アカウンティングでいう投資家とは、最終受益者たる年金受給者、保険契約者に対するフィデュシャリー責任を有するものとして位置づけている。 第2に、フィデュシャリー・アカウンティングが現代においてもっとも明示的にされたものとして「企業統治の会計」を位置づけ、それを3つの観点から接近した点である。すなわち、(1)前述した投資家を機関投資家としてでなく、フィデュシャリー投資家として捉えたこと、(2)財務報告の会計処理というよりも質をめぐる問題であると位置づけたこと、(3)財務報告それ自体が問題であるのではなく、報告すべき情報を生む出す企業組織内部の構造の問題であること。 第3に、フィデュシャリー・アカウンティングの一つの課題である退職給付(年金給付)をめぐる会計問題を一つのケースとして、その意味するところを上述した2つの観点から示した。
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