3次元カラビ・ヤウ多様体のグロモフ・ウィッテン不変量を具体的に求めることは大きなテーマであり、近年盛んに研究されている。本年度はこれに関して二つの成果を得た。 (1)3次元カラビ・ヤウ多様体のグロモフ・ウィッテン不変量は何らかの意味で連接層の足し上げと等価ではないかという予想が以前から存在する。弦理論の立場からはグロモフ・ウィッテン理論がDブレーンの言葉で書き換えられると思うことに相当する。これに関しては以前から吉岡氏との共同研究において当該カラビ・ヤウ多様体における曲線族に対する点の相対的ヒルベルトスキームが重要であることを指摘していた。これは物理的には(ユークリディアン)D2-D0ブレーンを考察することに相当する。一方、ゴパクマール・ヴァファによる提案によれば曲線族に対してコンパクト化された相対ヤコビアンが重要になる。両提案がどう関係しているのかは数年来謎であったが、ある仮定のもとで両者の整合性を示すことができた。結節点を持つ曲線の場合にマクドナルドの公式を拡張することが鍵であった。成果は論文としてまとめた。 (2)当該研究の大きなテーマは3次元カラビ・ヤウ多様体としてヒルツェブルフ曲面を底空間とし切断を有する楕円ファイバー構造がある場合を対象としたときに、弦双対性をヒントにして、グロモフ・ウィッテン不変量の生成関数を具体的に調べることにあった。以前の研究からあるヤコビ形式を決定すればこの生成関数である一変数の依存性を無視した情報が得られると予想していたが、これを具体的に決定した。この結果は現在論文を準備中であるが、楕円コホモロジーとの関係が強く示唆された。
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