1変数のモジュラー形式から2次のジーゲル・モジュラー形式への持ち上げは1970年代の後半に、齋藤・黒川によって独立に予想され、1980年頃にマース、アンドリアノフ、アイヒラー、ザギエ、ピアテツキー=シャピロらによって証明された。この持ち上げは今日では齋藤・黒川リフトと呼ばれている。本研究において、筆者は齋藤・黒川リフトを高次のジーゲル保型形式に対して拡張し、フーリエ係数の具体的な公式を与えた。さらに、この結果の類似を高次のエルミート型の保型形式に対して拡張することができ、やはりフーリエ係数を具体的に表す公式をえた。 また、ジーゲル保型形式に関して筆者が構成したリフトはアイゼンシュタイン級数の類似物とみなすことができ、これを対角集合への制限を核関数とすることにより別の種類のリフトを得る。これは今日宮脇型のリフトと言われるものである。筆者はこの宮脇型のリフトのL関数を計算し、さらに内積を与える予想を定式化することができた。 これに関しては宮脇型のリフトの論文と合わせて論文を投稿し、すでに掲載される事が決定している。 一変数の保型形式に関する3重L関数についてはギャレットによる積分表示公式の発見以後、多くの研究者によって研究されている。3重L関数の特殊値は保型形式の重さによって定値、不定値の2通りの可能性があるが、不定値の場合の方が研究が難しく、ハリスとクドラによる結果が知られているのみである、筆者は大阪市立大学の市野篤史氏との共同研究により、3重L関数の不定値の特殊値がエルミート型のマース・リフトと齋藤・黒川リフトの内積によって表されることを示した。この結果はグロス・プラサッドの予想から予言される結果とほぼ整合する。 この結果に関しても現在論文を投稿中である。 さらに、グロス・プラサッドの予想を精密化し直交群、ユニタリ群上の保型形式の周期とL関数の特殊値を結び付ける研究を市野氏との共同研究として遂行中である。
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