研究概要 |
前年の研究目標として,多変数保型形式の持つ整数論的性質の解明を挙げた。具体的には次の2点であった。 (1)Siegel-Eisenstein級数のp進的性質を明らかにする。 (2)標数pのmodular形式の性質を調べる。 これらの目標について、平成15年度内の研究において成果として得られた結果について説明する。 (1)については、既に前年度の結果(桂田氏と共同研究)は,Journal of Number Theoryに発表れたが,この結果のHermite modular版の結果が得られた。これは,上記の成果が所謂Siegel modular群に対するSiegel-Eisenstein級数のp進的な性質を解明したのに対して,Hermite modular群に対するSiegel-Eisenstein級数について類似の結果が成立すことを確かめた。これは単なる前結果の拡張ではない。すなわち,前結果はSiegel modular群に特有の現象であった可能性があったが,他のmodular群の場合にも同様の現象が確認されたことは,我々が得た最初の結果が偶然に成立した結果ではなく,背後に統一的に説明されるなんらかの理論が隠れている可能性を示唆しているからである。 (2)については,2つの進展があった。一つは2次のSiegel modular形式の場合,懸案であったp=2,3の場合に,その構造を決定することができたことである。これは,前々年度の成果であったpが5以上の素数の場合にmod p Siegel modular forms of degree 2の環の構造を決定したが,pが2,3の場合は困難な問題として残されていたものである。これは井草の有理整数環上のSiegel modular formsの環の生成元が得られているが,この15個の生成元を詳しく分析することにより得られる。他方はHilbert modular形式の場合に同様の性質を解明できたことである。判別式が8と5の実2次体に対するHilbert modular形式に対してt標数pの場合の環の構造を考察し,特別な場合にその生成元を与えている。
|