単体を張り合わせた空間、定曲率空間を張り合わせた空間、アレキサンドルフ空間、区分的に滑らかなリーマン計量等の研究は、境界付リーマン多様体を貼り合わせた空間の研究と密接に関連している。また、物体の表面も貼り合わせられた曲面であると考えられる。このように考えると境界なしの滑らかなリーマン多様体の研究の応用、実用という点で、張り合わせリーマン多様体の研究が重要となる。 本年度は、リーマン幾何学の1つの大きな手法の中心となっているトポノゴフの比較定理について考察し、いくつかの問題点が明らかになった。トポノゴフの比較定理の証明は、目的の測地三角形を細い三角形に分割し、それぞれの細い三角形に対してラウチの比較定理を応用するのが普通である。この分割に用いる測地線がリーマン多様体の貼り合わせ部分に接する場合に計算不可能になってしまう。このことが障害となる。これは、ラウチの比較定理の拡張の際にその証明法の必要性から除外した問題でもある。この部分をどう解決するかが今後の問題である。 リーマン幾何学およびその周辺の研究者との研究打ち合わせや議論を通して取り上げるべき問題や、応用についても考察した。貼り合わせ多様体として平面凸ビリヤード台を具体的な対象として取り上げ、各点がビリヤード三角形の頂点と成り得る平面凸ビリヤード台の描画を試みた。描画に成功したが円からの変形がほんの僅かでなければならず数学理論と視覚化が問題となった。ラウチの比較定理という極微の評価を積み重ねてトポノゴフの比較定理まで到達すれば視覚化に向かっているといえる。
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