境界のないリーマン多様体は古くから研究され、その崩壊現象から生じるアレキサンドルフ空間の研究は、この15年間ほど盛んになってきている。物体の表面は、直方体や半球体の表面のように、滑らかな曲面をその境界で貼り合わせたものであることが多い。現実の問題では、アレキサンドルフ空間ほど抽象的ではなく、今までによく研究されてきた滑らかなリーマン多様体の範疇には入らない空間を採り上げる必要がある。空間概念としては、貼り合わされたリーマン多様体は、滑らかなリーマン多様体と抽象的に定義されたアレキサンドルフ空間の間に位置し、区分的に滑らかなリーマン計量を持つ多様体とみなせる。貼り合わされたリーマン多様体の研究は現在まで殆どされていない。本研究の目的は、リーマン多様体やアレキサンドルフ空間の類似的研究がどの程度まで可能であるかをはっきりとさせ、類似でない事柄を見出し、貼り合わされたリーマン多様体を独自の研究対象として確立することである。リーマン多様体の研究は広範囲に及んでいるので、その応用も重要である。 平成13年度には、貼り合わせた部分を乗り越えて進む測地線に沿うヤコビベクトル場が、貼り合わせ部分でどのように変化するかを明らかにした。東京理科大学の滝口氏は、さらに、貼り合わせ部分の次元が違う場合に対してもその変化を明らかにした。平成14年度には、本研究の出発点となった平面凸ビリヤード問題に関するコンピュータシュミレーシヨンを行い、コンピュータグラフィックによって数学理論の確認と新しい現象を見出した。平成15年度には、平面凸ビリヤードをコンフィグレーション空間で記述した場合の平行線の公理とビリヤード台上でのビリヤード軌道によるコウスチックの存在の関係を明らかにした。平成16年度には、離散数学のうちで幾何学に関係したテーマに対して、貼り合わされた曲面上で理論展開できることを見出した。
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