結び目の体積予想とは、有名なジョーンズ多項式の漸近挙動が結び目の補空間の単体的体積を決定するという予想で、カシャエフ、村上斉-村上順によって定式化されました。この予想は、村上斉-村上順-岡本-高田-横田の数値実験を経由して一般化され、とくに海外で注目を集めている話題です。この研究の目的は、結び目の体積予想から想像される、ジョーンズ多項式と幾何構造との深い関係を明らかにすることですが、本年度の研究ではとくにジョーンズ多項式と結び目のA-多項式の関係に注目し、ジョーンズ多項式とA-多項式の漸化式の類似性など、いくつかの重要な成果を得ました。また研究分担者の協力のもと、メビウス変換で不変な結び目の汎関数との関連についての研究を行いました。 結び目のA-多項式は、補空間の基本群の表現空間から得られる代数曲線の定義多項式で、双曲構造の変形理論やデーン手術の理論で中心的な役割を果たす重要な多項式ですが、そのマーラー測度に擬体積デデキントのゼータ関数が現れることが発見され、最近では数論の研究者にも注目されています。この研究では、体積予想の研究で発見したポテンシャル関数の偏微分方程式からA-多項式を効率的に求める方法を開発し、結び目の局所変形や対称性を利用して、いままで計算が困難だったA-多項式を組織的に計算することを可能にしました。とくに結び目の局所変形に関するA-多項式の漸化式と、ゲルカ-セインによって発見された高次のジョーンズ多項式の漸化式との類似は、体積予想よりさらに大きいスケールで、ジョーンズ多項式とA-多項式を統合する理論を構築する足掛かりとなるでしょう。 この研究で得られた成果は、平成14年度に行われた国際研究集会1件、国際研究集会2件およびアメリカ数学会分科会から招待を受け、発表の機会を多数得ることができました。とくに日米数学研究所主催の研究集会「数論と結び目」では、日米の数論研究者との研究交流の機会を得て、この研究課題で目指した研究分野が今後さらに発展することを実感しました。
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