研究概要 |
本年度に得られた結果の概要は次のものである。 複素数体C上の2n生成元をもつワイル代数Wを考える。Wに順序表示(ordering expression)を指定すると、Wから2n次元複素ユークリッド空間上の多項式環P(C,2n)への線形同型写像を得る。この線形同型写像により、Wの非可換結合的な積をP(C,2n)に移し、P(C,2n)に非可換結合的な積^*(star積と呼ばれる)が定義できる。この積が、変形パラメータが数であるdeformation quantizationの例を与えることに注目した。 (i)このようにして得られたdeformation quantization (P(C,2n),^*)を適当な位相で完備化して非可換結合フレッシェ代数の族、(Ep((C,2n),^*)を得た。ここでパラメータpは0以上2未満の実数である。 (ii)また、標準的な順序表示としてワイル順序(Weyl ordering),正規順序(normal ordering),反正規順序(anti-normal ordering)があるが、これらについて詳しく調べた。それぞれの与える同型写像によるEp((C,2n)上のstar積^*を具体的に求め、さらにこの公式を利用してこれら3つのstar積^*の間の変換公式(intertwinning fomula)を得た。これらの変換公式を用いてフレッシェ代数の変換が得られるが、これが非可換代数の張り合わせを与えると見て、非可換な多様体のアイデアが得られる。 (iii)上記(ii)の具体例として、2次式の^*指数関数の作る非可換な多様体を詳しく調べた。 2次式の^*指数関数はフレッシェ代数(Ep((C,2n),^*)でパラメータpが2未満のものに属しておらず、指数関数を素朴な計算により定義することができない。したがって^*指数関数を微分方程式を用いて定義した。ワイル順序、正規順序、反正規順序のそれぞれについて^*指数関数を求めた。さらに、これらの間の変換公式も微分方程式により与え、これらを詳しく調べた。得られた非可換な多様体は、従来の意味の多様体ではなく、Hitchinらの議論しているgerbの構造をもつものであることがわかった。
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