研究概要 |
ある生態系へ新たに侵入した生物によって,その生態系が大きく撹乱され,生物の多様性や人間活動と対して深刻な影響を受けることがしばしば起こっている.このような侵入生物がどのようにその分布域を拡大していくかを偏微分方程式でモデル化し,その偏微分方程式の進行波解の存在を調べることにより,その分布域拡大速度を調べた. モデルでは個体群を分散個体と定着個体に分け,分散個体は拡散移動するのみの移動状態にあり,着個体は移動せず増殖のみをする増殖状態にある個体である.また,増殖においては少数個体では増殖が難しくなるアリー効果を導入し,分散においてはランダム拡散を仮定した.また,分散個体と定着個体とは互いにある一定確率速度で他の状態の個体に変わるとした.今までこの2つを一緒に組み込んだモデルはなく新しいモデルの提案である.進行波解の存在の解析から,これらの2つの状態間の遷移確率が等しい場合と増殖状態から移動状態への遷移確率が極端に少なく分散個体がほとんどいない場合について,分布域拡大速度の推定式を与えることができ,モデルの計算機による数値計算によりその推定式が広いパラメータ領域で成り立つ可能性を示すことができた.また,一般の増殖では分散個体が極端に少なくなっても拡大速度が大きいままであるが,アリー効果により拡大速度が小さく,ほとんど0となることを明らかにし,数理生態学の分野にも新しい知見を与えることができた.
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