研究概要 |
シュレディンガー方程式を中心に,数理物理の方程式について,関数解析,偏微分方程式などの手法を用いて研究した. (1)半古典極限について:シュレディンガー方程式のプランク定数を0に近づけるときに,作用素のスペクトルや方程式の解がどのような振る舞いをするかを研究するのが半(準)古典極限の理論である.A.Martinez(ボローニャ大),V.Sordoni(同)と共同で,相空間のトンネル効果の評価とその応用について研究し,断熱極限の指数的評価への応用を得た. (2)ランダムシュレディンガー作用素:ポテンシャルが確率過程であるようなシュレディンガー作用素をランダムシュレディンガー作用素と呼び,物性物理などで重要な役割を果たす.状態密度(IDS)やアンダーソン局在を中心にこの分野の研究をしている.F.Klopp(パリ大学),野村祐司(東工大),中野史彦(東北大)との共同研究で,ランダムな磁場を持つシュレディンガー作用素について考察し,特定のモデルでのスペクトルの局在を証明した.また、F.Kloppとの共同研究で,同様の手法を用いてランダムホッピング・モデルと呼ばれるランダム作用素のスペクトルの局在を示した. (3)シュレデインガー方程式の特異性の伝播について: シュレディンガー方程式の解の波としての伝播速度は無限大であり,波動方程式のような波面集合の有限伝播性は成り立たないことが知られている.その代わりに,初期値の減衰が解のなめらかさを導くことが知られており,これは平滑化効果と呼ばれる.超局所平滑化効果が一種の波面集合の伝播定理として捉えられることを示し,主要部が長距離型の摂動を持つ場合に拡張した.また,この結果を精密化し,摂動が短距離型の場合は,古典力学的散乱作用素を用いて,シュレディンガー方程式の解の波面集合が特徴づけられることを示した.これらの研究は継続中であり,近い将来の発表に向けて準備中である.
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