研究概要 |
シュレディンガー方程式を中心に,数理物理の方程式について,関数解析,偏微分方程式などの手法を用いて研究を行った.研究代表者の研究成果を中心に、以下に概要を述べる. (1)半古典極限について:シュレディンガー方程式のプランク定数を0に近づけるときに,作用素のスペクトルや方程式の解がどのような振る舞いをするかを研究するのが半(準)古典極限の理論である.A.Martinez(ボローニャ大),V.Sordoni(同)と共同で,相空間のトンネル効果の評価とその応用について研究を行った.2002年の共著論文では多状態の量子力学系の散乱の解析に,2004年の(Sordoniとの共著の)論文では断熱極限の指数的評価への応用を得た.また,2003年のStefanov, Zworskiとの共著論文においては,共鳴と散乱の関係について,半古典極限下で論じた. (2)ランダムシュレンディンガー作用素:ポテンシャルが確率過程であるようなシュレディンガー作用素をランダムシュレディンガー作用素と呼び,物性物理などで重要な役割を果たす.状態密度(IDS)やアンダーソン局在を中心にこの分野の研究を行った.2003年のKlopp,中野,野村との共著論文ではランダムな磁場を持つシュレディンガー作用素について考察し,特定のモデルでのスペクトルの局在を証明した.印刷中Kloppとの共著論文では同様の手法を用いて,ランダムホッピング・モデルと呼ばれるランダム作用素のスペクトルの局在を示した.2001年,2002年のCombes, Hislopとの共著を含む4編の論文では,IDSの一意性や連続性証明するための一般的な方法について考察した. (3)シュレディンガー方程式の特異性の伝播について:シュレディンガー方程式の解の波としての伝播速度は無限大である,波動方程式のような波面集合の有限伝播性は成り立たないことが知られている.その代わりに,初期値の減衰が解のなめらかさを導くことが知られており,これは平滑化効果と呼ばれる.印刷中の中村の論文では,超局所平滑化効果が一種の波面集合の伝播定理として捉えられることを示し,より精密な結果を拡張された条件の下で証明することに成功した.
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