研究概要 |
可積分系から得られる非線型方程式への完全WKB解析の一般化を考察する準備として、本年度は主に、線型の単独高階方程式や連立方程式系に関する研究を行った。まず、単独高階方程式のStokes曲線を決定する為に、青木貴史氏や河合隆裕氏と共同で、通常の最急降下法の拡張である"完全最急降下法"という新しい方法を見出しその理論整備を図った(11項「研究発表」記載の第1論文)。更に、この完全最急降下法を利用し、いくつかの具体例に対する解析を通じて高階方程式特有の現象である"Stokes曲線の消滅"について論じた(T.Aoki, T.Koike and Y.Takei:"Vanishing of Stokes curves"、preprint、投稿中)。他方、連立方程式系に対する完全WKB解析の基礎理論の確立に取り組み、単純及び2重変わり点における(完全WKB解析の意味での)局所的な変換論を建設することに竹井が成功した(現在主論文を準備中)。これは、単純及び2重変わり点を起点とするStokes曲線上での、連立方程式系のWKB解のBorel和が満たすべき接続公式が具体的に得られたことを意味する。この結果の応用として、青木・河合の両氏と共同で、エネルギーレベルの交差に伴う遷移確率の計算という物理の問題に対する完全WKB解析の立場からの一つの解答を与えた(11項の第2論文)。こうした線型方程式(系)に対する理論整備の進展は、可積分系から得られる非線型方程式への一般化という本来の目標に対しても大きな進歩をもたらしつつある。実際、例えば野海・山田両氏により発見された"高階Painleve方程式"に関して、その変わり点やStokes曲線の構造が、それに付随したLax pair(これは線型方程式系)の変わり点やStokes曲線の構造と密接に関連していることが竹井により証明された。この結果を足がかりにして、来年度は"非線型方程式の完全WKB解析"に取り組んでいきたい。
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