磁場による散乱とアハラノフ・ボーム効果

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13640176
• 研究機関: 岡山大学
• 研究代表者: 田村 英男 岡山大学, 理学部, 教授 (30022734)
• 研究分担者: 田中 直樹 岡山大学, 大学院・自然科学研究科, 助教授 (00207119) ; 廣川 真男 岡山大学, 理学部, 助教授 (70282788) ; 勝田 篤 岡山大学, 理学部, 助教授 (60183779) ; 伊藤 宏 愛媛大学, 工学部, 助教授 (90243005) ; 岩塚 明 京都工繊大学, 繊維学部, 教授 (40184890)
• キーワード: magnetic scattering / scattering amplitude / magnetic vortex / Aharonov-Bohm efrect

研究概要

量子力学に従う粒子が直接磁場に触れていなくても,ベクトル・ポテンシャルからの影響をうけ,離れた場所の磁場を感じる現象はアハラノフ・ボーム(Aharonov-Bohm)効果として知られている.
本研究の主要課題は,複数個の2次元デルタ型磁場(magnetic vortex)による散乱に現れるこの量子効果の数学的究明を目指したものである.具体的には,直線上に並んだデルタ型磁場の中心を大きく離したときの散乱振幅の漸近公式の導出,磁場ポテンシャルによって生じる位相差の解明を目的とする.1つの点に台をもつデルタ型磁場に対しては,その散乱振幅はすでに計算されている.2次元磁場散乱においては,例え磁場が1点に局在しても,対応するベクトルポテンシャルの台を全平面に拡がり,さらに無限遠では長距離型の緩やかな減衰になるのが著しい特徴である.得られた成果は,粒子の入射,散乱方向,各磁場のフラックスに加えて,隣接する磁場間の距離の比に関わる興味深いものである.
磁場ポテンシャルを流れの速度ベクトル場,磁場を渦度に読み替えると,磁場散乱は渦による音波の散乱現象にも当てはまる.例えば,カルマン渦列による音波の散乱はその一例である.基礎方程式は,量子力学とは異なり,オイラー方程式を線形化して得られる双曲型方程式である.渦による散乱に対する散乱振幅の解析およびアハラノフ・ポーム効果との関わりについて,流体力学系の専門誌で最近しばしば目にするが,数学的な厳密さを欠くものである.数学的基礎付けを継続研究課題として研究中である.さらに,デルタ型磁場をもつディラック作用素のスペクトル・散乱理論の展開へと次年度に向けて現在研究対象を広げている.

研究成果

• [文献書誌] 田村 英男: "Norm resolvent convergence to magnetic Schrodinger operators with point interactions"Rev.Math.Phys.. 13. 465-511 (2001)
• [文献書誌] 田村 英男-伊藤 宏: "Aharonov-Bohm effect in scattering by point-like magnetic fields at large separation"Ann.Henri Poincare. 2. 309-359 (2001)
• [文献書誌] 田村 英男-伊藤 宏: "Asymptotic behavior of scattering amplitudes in magnetic fields at large separation"J.Math.Soc.Japan. 53. 645-668 (2001)
• [文献書誌] 田村 英男-伊藤 宏: "Scattering my magnetic Fields at large separation"Rubl.RIMS, Kyoto Univ.. 37. 531-578 (2001)
• [文献書誌] 田村 英男-一瀬 孝: "The norm convergence of the Trotter-Kato product with error bound"Commun.Math.Phys.. 217. 489-502 (2001)
• [文献書誌] 田村 英男-一瀬 孝, 田村博志-V.A.Zagrebnov: "Note on the paper 1 "The norm convergence of the Trotter-Kato product formula with error bound" by Ichinoce and Tamura"Commun.Math.Phys.. 221. 499-510 (2001)