フーリエ・ヤコビ変換の逆変換公式は、コンパクトな台をもつ滑らかな関数に対して、70年代にKoornwinder、Flested-Jensenによって得られている。本年度の目標は一般の関数にこの公式を拡張することであり、次の2つの方法を試みた。とくに二つ目の方法では分数積分・微分に関する実解析的考察が必要となり、中井の最近の結果が有効であった。また、計算においては、北京大学の劉建明氏とも共同に行った。方法1:DicjkとHilleが1997年に、(cosh x)^ηに対して用いた方法を一般化した。この場合、超幾何関数の級数展開公式を使い、各項別に解析接続を直接行なった。その結果、解析接続にともなう特異点と逆変換公式に現れるC-関数の特異点が一致する可能性があり、2位の留数をもつ逆変換公式となる。留数は有限個の項から現れ、その和として記述できた。方法2:方法1とはべつに、フーリエ・ヤコビ変換をアーベル積分とフーリエ変換に分解する方法も試みた。この方法は解析接続の議論をユークリッド空間の場合に帰着させる方法で、アーベル積分を考えることにより、C-関数の寄与を消す事ができた。このとき、アーベル積分の性質を詳しく解析する必要があった。実際、積分を適当な変数によりユークリッド空間における分数積分の形に帰着し、実解析的な手法によって解析した。これにより方法1よりは証明の見通しがよくなり、また留数計算も容易となった。さらに、C-関数の寄与が消えたので、1位の留数をもつ逆変換公式が得られた。しかしながら、アーベル積分を合成する際に、関数にある種の仮定が必要となり、この仮定が(1)の二つの極を一つ消していると考えられる。 このように2つの方法を試みたが、フーリエ・ヤコビ変換のパラメータα、βがRe(α)>Re(β)>-1/2をみたすときこの2つの結果は完全に一致する。この場合はC-関数が上半平面で正則な場合である。仮定が満たされないとき、二つは異なる逆変換公式となるが、その特異点や留数の直接の対応はまだ得られていない。今後の課題である。
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