本年度は飛躍のある確率微分方程式に関する理論を数理ファイナンスの問題に応用した。最近数理ファイナンスにおいて、株や債券の価格変動が必ずしも連続でなく、飛躍が起こる場合が重視されるようになった。この場合、条件付請求権は必ずしも達成可能ではなくなり市場は完備ではない。またリスク中立確率(マルチンゲール測度)が一意に定まらないなど複雑な現象が起こる。 本研究では、渡辺信三氏との共同研究で得た飛躍のあるマルチンゲールの表現定理を数理ファイナンスの観点から見直して再構成した。その理論を応用して、株や債券の価格変動を記述する価格過程が指数レビー過程で表される場合に、すべてのリスク中立確率を決定した。また市場が完備でないために条件付請求権の価格を一意に定めることはできないが、その上極限価格と下極限価格を決定した。これらの価格は、リスク中立確率を変えて得えられる、割り引いた条件付請求権の平均値の集合の上限及び下限として決定することができた。 また投資家のもう効用を最大にする消費・投資計画の問題にマルチンゲールの表現定理を応用し、一般の凸増加型の効用関数に対して最適消費・投資計画が存在することを示した。さらに指数型効用関数、対数型効用関数及び等弾力効用関数の場合に具体的な最適消費・投資計画を求めた。 これらの成果を発表するため、現在資料の点検・整理を行っている。
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