本年度は新たに愛媛大の石川保志氏と「ウイナー・ポアソン空間上のマリアヴァン解析」について共同研究を行った。ウイナー空間とポアソン空間の直積空間上に定義された確率ベクトルに対しマリアヴァン共分散行列を導入し、それが可逆かつ逆行列が任意の1より大きいpに対してp乗積分可能であれば、その確率ベクトルの分布は滑らかな密度関数を持つことを証明した。この結果はウイナー空間上に定義された確率ベクトルの分布の滑らかさにつてマリアヴァンが得た結果の拡張になっている。さらにその結果を飛躍のあるレビー過程によって統御される確率微分方程式の解に応用して、方程式が非退化の場合は解の分布は滑らかな密度関数を持つことを示した。 さらに、飛躍のあるレビー過程によって生成される確率空間のマルチンゲールの構造を研究し、その結果を数理ファイナンスの問題に応用した。株価の変動を記述する確率過程(株価過程)が飛躍を持つとき、取引市場は完備ではなくなる。その結果、多くのリスク中立確率(同値マルチンゲール測度)が存在する。また必ずしも、すべてのマルチンゲールが(割り引かれた)株価過程による確率積分で表される(マルチンゲール表現をもつという)とは限らない。そのためオプション価格を一意に定めることはできない。本研究ではすべての同値マルチンゲール測度のもとでマルチンゲールとなる確率過程はマルチンゲール表現を持つことを示し、そのことを用いてオプションの上限価格と下限価格を定めた。
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