幾何学的力学系理論の展開と応用という課題で、研究代表者の岩井は以前の研究に引き続いて、多体系の力学の幾何学的研究を行った。そのうちのひとつは、平面3体系の量子力学の研究であり、他のひとつはその一般化である。 平面3体系の研究では、重心周りの回転による3体系の波動関数の簡約化の問題を扱った。特に、波動関数が重心系の原点でどのような境界条件に従うかを、つまり、3体が同時衝突をおこすときの境界条件を研究した。平面回転群の作用を利用して波動関数をフーリエ展開して、各成分の群作用による同変性を考慮することにより、原点における波動関数の境界条件を得た。すなわち、3体系の全角運動量がゼロであれば、原点における波動関数の値はゼロでなくてもいいが、全角運動量がゼロでなければ、波動関数の値は原点でゼロでなければならない。また、3体が同種粒子の場合の置換対称性についても研究した。 続いて、この研究を一般化して、多様体上にコンパクト群あるいは有限群が作用している場合にその群作用を利用して、多様体上の量子力学系を簡約化するための方法論を展開し、それを、空間多体系の量子力学に応用した。この場合、考える多様体は重心系であり、コンパクト群は空間回転群、有限群は粒子の交換を意味する対称群である。ここで展開したコンパクト群および有限群の作用による簡約化理論はどちらも、表現論におけるピータ・ワイルの定理の応用である。 研究分担者の上野は、数式処理プログラムで発見したハミルトン系の標準形に関する定理を数学的厳密に再考して、変数分離に関するダルブー条件がハミルトニアンの標準形への変形のための条件として捉えられることを証明した。
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