幾何学的力学系理論の展開と応用という課題で、前年に引き続き、多体系の量子力学の幾何学的研究を行った。変換群論を応用して、多体系の重心系を回転群の作用で層化して、各層ごとに対応する量子力学系が構成できることを示した。具体的には多体系を仮に分子とよぶことにすれば、「線形」の分子と「非線形」の分子とでそれぞれの波動関数が従うべきハミルトン作用素が内部座標だけで書くことができるということを示した。これは、線形分子と非線形分子とではその取り扱いが異なるという従来の物理学の考え方を変えるもので・変換群論の立場にたてば、統一的な取り扱いが可能になることを主張している。 各層で定義される作用素は、その層の低次元境界で特異性をもつのであるが、エネルギー積分の観点からは積分が発散しないという意味で本質的特異性をもつのではないということも証明した。 これらの研究に用いた道具は、研究代表者が以前から使っている研究手法である、ピータ・ワイルの定理を応用したフーリエ解析の手法である。この手法では、波動関数を分解して、表現空間に値を持つベクトル値の同変関数を自然に導入することができる。そして、この同変換数の性質を用いると、各層の上の波動関数の形が明らかになり、また、各層の境界での波動関数の振舞いも明らかにすることができる。 こうして、重心系全体で定義されていたハミルトン作用素が、例えば、線形分子や非線形分子のハミルトン作用素に層化、簡約化される。 研究分担者の上野はバーコフ・グスタフソン標準形の逆問題のための数式処理プログラムを開発し、それを用いて、調和振動子の摂動系の中から物理的に意味のある系を見出した。
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