本研究課題にいう幾何学的力学系理論とは、主に多体系の運動を幾何学的に研究するというものである。空間内に粒子が一直線上に並ぶ場合を除けば、重心系に主バンドルの構造が見出せて幾何学的な考察が容易となる。 しかし、そのような制限を取り払っても簡約化の理論が構築できることを示した。量子系に関して言えば、キーワードはコンパクトリー群のユニタリー表現に関するPeter-Weylの定理である。重心系に回転群が作用する場合に、作用を受ける重心系ではなく、作用する側の回転群に着目して、多体系の量子力学の波動関数にこの定理を適用することにより、多体系の幾何学的な困難を回避しながら多体系の量子論を進展させることができた。またこの研究の過程で主バンドル上の接続の理論が、構造群の作用が自由でなくなる場合にも拡張できることを示した。これにより、回転群の自然な作用を用いて多粒子の量子力学系を簡約化するという理論が一般的に確立された。詳しく言うと、変換群による多様体(ここでは重心系)の軌道型による分解(つまり、多様体の層化)と、Peter-Weylの定理とを組み合わせて、層化簡約化の理論を構築し、多体量子力学系に応用した。すなわち、層ごとに量子力学系が定義でき、Peter-Weylの定理と組み合わせて、量子力学系の簡約化を実行した。具体的には、多体系が平面以上の広がりをもつ場合と直線状の場合とで、別個に力学系を定義し、簡約化の手続きを実行した。また、主層の境界では、運動エネルギー作用素に特異性が現れて、エネルギー積分に発散の困難が危倶されるのだが、実際にはエネルギー積分に発散が起こらないことも証明した。
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