戸田格子とは指数関数的相互作用を及ぼす非線形のばねでつながれている粒子系のなす力学モデルである。今回は有限個の質点系の場合を考えた。戸田格子はリューヴィルの意味で積分可能である。すなわち十分多くの保存量を有する。その解はBruhat分解をもちい、いわゆる佐藤フォーマリズムにのっとり求めることが出来るがこの方法では得られる戸田格子のラックス行列は一般に下三角部分に成分のつまっているいわゆるフル戸田格子になってしまう。本来戸田格子のラックス行列はヤコビ元といわれる3重対角行列である。コスタントは彼の論文のなかで一番大きな胞体に関するBruhat分解から佐藤フォーマリズムを経て得た解によるラックス行列はヤコビ元になっていることを証明した。今回の研究の目的は彼の結果を一般化し任意の胞体においてもそのBruhat分解からヤコビ元のラックス行列が得られることを証明した。その証明の方針は戸田格子を等位集合上の軌道と考えるのではなくLax行列の座標環の変形と捉えることである。この座標環には対角線からどれだけ離れているかによりグレーディングがはいる。そしてこのグレディーングは波動行列、τ関数のレベルでも保存され、さらにポアッソン括弧でも保存される。このグレーディングをもちいてヤコビ元の空間へ射影することができる。さらにこの射影作用素はポアッソン写像になっていることもわかる。以上が証明の方針である。現在シンプレクティック幾何学におけるミラー対称性や量子コホモロジーの議論で可積分系がことあるごとに顔を出す。戸田格子と幾何学の関連はより一層重要性を増すものと思える。
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