研究概要 |
本研究は,閉多様体上の擬軌道尾行性(shadowing property)をもつベクトル場を研究対象とし,その分岐現象を解明しようというものであった.以後,簡単のために擬軌道尾行性をSPと表すことにする. 本研究を進めて行く上で,SPをもつ微分可能ベクトル場全体における内点(C^1-位相)を微分幾何学的に特徴付けすることが不可欠であるが,平成13年度の終了の時点ではその完成には至っていなかった.平成14度は,引き続き力学系理論の立場でSPをもつベクトル場を特徴付ける幾何学的構造を見出し,分岐現象解明に努力してきた.SPをもつベクトル場全体の集合をSPで表し,ベクトル場全体の中でのC^1-位相に関するSPの内点集合をintSPで表す.この内点を幾何学的に特徴付けるときに大きな障害となっていたのが特異点の存在である.平成14年度の研究では,Axiom Aと強横断性条件を満たすベクトル場Xから生成されるフロウX_tの特異点周りにおける振舞いを詳細に解析した.その結果,特異点の近傍においてX_tはある特別(ではあるが極自然)な性質を満たすことを発見した.ここでは,その性質を(*)と呼ぶことにする.さらに研究を推進することにより,「X∈intSPが(*)をもつ」ことと「XがAxiom Aと強横断性条件を満たすこと」が同値であることを解明した.これにより,多少条件付ではあるが平成13年度の研究目的が達成できたことになる.現在は,この結果を基礎としてSPをもつベクトル場を含む1-パラメーター族に対し,パラメーターと共にその軌道構造がどのように変化するかを調べそのメカニズムの解明を行っており,全体として7割程度は目的が達成されたと言える.
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