この研究の目的は楕円銀河の分光学的年齢を測定し、現代天文学でもっとも謎とされる楕円銀河の形成の時期を突き止めることにある。本課題で承認された三年間の研究期間において、すばる望遠鏡(国立天文台)、ウィリアム・ハーシェル望遠鏡(スペイン・英国)、NTT望遠鏡(ESO)といった国内外の観測装置を駆使して近傍のフィールド(13個)と銀河団(乙女座銀河団14個)にある楕円銀河のHγプロフィールを測定し年齢と化学組成を求めた。このHγプロフィールを用いる方法は研究代表者が中心となって開発したものであり、それまでは困難とされてきた銀河スペクトルに於ける年齢と化学組成の縮退を解いて、各々を精度良く求める方法として国際的にも非常に高く評価されており、この研究はそれを多数の楕円銀河について初めて適用した画期的なものである。本研究では銀河の年齢・化学組成が銀河の力学的質量や光度とともにどのように変化しているか、銀河環境にどのように依存しているか、更に、銀河の中での星の年齢や化学組成がどのように分布しているかについて詳細に調べた。その結果、1)巨大な楕円銀河の年齢は銀河団では一様に古く、100億年以上である。それに対して、フィールドでは60-100億年以上と年齢に大きな幅を持つ。このことはフィールド銀河の中には星生成をごく最近まで行っていたものがあることを意味する。2)矮小楕円銀河は環境に無関係に30-100億年以上という大きな散らばりを示す。これは矮小楕円銀河の星生成史が従来考えられていたよりも複雑であることを意味する。3)楕円銀河のマグネシウム/鉄の比と質量の間には強い正の相関があり、質量が大きなものほど星生成の期間が短いことを意味する。4)我々に最も近い楕円銀河M32では周辺から中心部に向かって星の平均年齢が30億年程度減少し、マグネシウム・鉄比の値も銀河系ハローの値から太陽値まで減少しており、これは星生成が中心部では最後まで起こっていたことを示す。これらのことから、楕円銀河の形成は銀河によって個性がある(特に矮小楕円銀河)ものの、大局的には、大質量の楕円銀河ほど、また、銀河密度が高いほど星生成を早く終えると言える。
|