恒星は集団で生まれる。密集しているので、近接遭遇も経験し、その際の重力散乱で、集団はばらばらになっていく。恒星のまわりには惑星が形成されつつあるので、原始惑星系は、このような他の星との近接遭遇を経験する。この遭遇が原始惑星系に与える影響を調べるのが本研究の目的である。一般に原始惑星系の内側領域は中心星に強く束縛されているので、影響は弱い。本年度はこの影響が比較的弱い部分を調べた。比較的弱いといっても、軌道離心率が0.01程度上昇して、僅かに軌道が歪んだだけでも、その領域での微惑星の衝突は非常な高速となり、合体せずに破壊し、その後の惑星形成は阻害されるので、弱い影響でも惑星形成に与える影響は大きい。僅かに軌道が歪む領域では、解析的近似解が存在する。われわれは解析的近似解を導出し、数値的な軌道計算結果と比較した。その解析的近似解は軌道離心率の上昇が0.01以下の場合は十分に正確であることがわかった。次にこの解析的近似解を使って、惑星形成が阻害される条件を計量的に求めた。近接遭遇のパラメータはたくさんあるが、解析解を求めたので、全てのパラメータに関する依存性も明らかになった。重要なパラメータは近接遭遇の最接近距離Dで、中心星から、0.2〜0.25Dの距離より遠い領域では惑星形成が阻害されることがわかった。Dが150〜200天文単位の場合はこれによる惑星形成可能領域の大きさは太陽系と同程度になる。太陽系で大きな惑星が形成された領域の大きさは他の恒星との近接遭遇によって規定されたのかもしれない。この惑星形成阻害領域での破壊的衝突によるダストが主系列星ダスト円盤の形成につながっているとも考えられる。主系列星ダスト円盤は一般に中心星から数十天文単位より外側に存在しており、それもわれわれの結果と調和的である。この結果はアメリカ天文学会惑星科学部門の学会誌"Icarus"に発表した。
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