研究概要 |
本研究課題の初年度に当たる平成13年度は,カーブラックホール(回転するブラックホール)のまわりのプラズマの基本的性質を調べるために,カーブラックホール,一様磁場,一様プラズマからなる比較的簡単な系の数値計算を行った。回転するブラックホールの周りには「エルゴ領域」と呼ばれる非常に特殊な領域がある。この領域の中ではあらゆる物質、エネルギー、情報がブラックホールの回転と同じ方向にしか移動・伝播できない。当然、その領域内のプラズマはブラックホールと同じ方向に回転する。磁場はプラズマに「凍り付く」ように移動するので、磁力線はエルゴ領域付近で大きく摂られることになる。この捩れは磁力線に沿って伝わる。この捩れの伝播がエルゴ領域内のエネルギーを外へ運び出すことになる。磁場が十分強いと、エネルギーの伝播も大きくなりエルゴ領域のエネルギーは急速に減少し、最後には負になる場合がある。「負のエネルギー」は負の質量に相当するもので、エルゴ領域以外では決して実現しない異常なエネルギー状態である。この「負のエネルギー」状態のプラズマがブラックホールに吸い込まれると、ブラックホールの質量が減る。すなわち、ブラックホールのエネルギーが引抜かれたことになる。全体として見ると、その引抜かれたエネルギーは磁場をつたって外部へと放射されたことになる。 この結果は「カー・ブラックホールの回転エネルギーの磁場による引き抜きと相対論的ジェット形成」と題した論文として米国サイエンス誌上に発表され、当該分野の研究者だでではなく、多く一般の人々の興味を引き付けた。(NASAのホームページの数日間ではあるがトップを飾った。また、米国や日本の新聞紙上でも取り上げられた。)また,この論文はサイエンス誌に受理された論文の中でも最もタイムリーで重要な論文のみが取り上げられるサイエンス・エクスプレス(速報)として今年1月25日に配信された。
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