現在、宇宙には3種類の相対論的ジェットが観測されている。ひとつはクエーサーや楕円銀河などの活動的な銀河の中心領域から放出されるもので、そのジェットの長さは100万光年にわたることがある。一方、われわれの銀河(銀河系)の中にも全長が1光年程度の相対論的ジェットが観測されており、その中心天体はマイクロクエーサーと呼ばれている。さらに、ガンマ線バーストの本体も一方向に絞られた相対論的な流れであることが明らかになっている。これらの相対論的ジェットの形成機構についてはさまざまなモデルが提案されている。いずれのモデルもブラックホールのまわりの激しい現象を利用することでは一致している。ジェット形成には2つの問題がある。ひとつはガスあるいはプラズマを加速し相対論的な流れを作ること。もうひとつはその相対論的流れを絞り込みジェットを形成することである。さまざまなモデルのある中で磁場を用いるモデルは加速と絞込みを同時に説明できるものとして魅力的である。しかし磁場により相対論的なジェットの形成が可能かということさえ明らかになっていない。それはブラックホールの周りの磁場とプラズマの相互作用を扱わなくてはならず、その取り扱いが難しいからである。われわれは一般相対論的電磁流体力学の数値計算を用いていくつかの重要な先駆的な結果を発表した。 その中で回転するブラックホールからの磁場によるエネルギー引き抜きに関する論文は米国科学誌「サイエンス」に掲載され、NASAのホームページのトップを飾るなど一般の方の興味を引き注目された(2002年)。この論文は非常に速く回転するブラックホールを強い一様磁場の中に置くとブラックホールの「時空の引きずり効果」により磁力線がねじられ、そのねじれが外にアルフベン波として伝わることによりエネルギーがブラックホールから放出されるということを明らかにした。しかし、プラズマはほとんどブラックホールに落下しジェットは形成されなかった。そこで、磁場の配位を放射状にして数値計算したところ「空間の引きずり効果」によりプラズマが加速され相対論的アウトフローが形成されることが明らかとなった(2004年)。現在、その相対論的流れが磁気的力により絞られジェットが形成されるまで計算を継続することができず、相対論的ジェットを完全に再現するところまでは至っていない。しかし、長時間計算さえできればそのアウトフローは収束し相対論的ジェットになると期待される。 本研究により世界で始めてジェット形成の一般相対論的電磁流体力学の数値計算を行い当該分野での有効性を示し、いくつかの重要な基礎的結果を得ることができた。とくに対論的電磁流体力学の数値計算は本研究が世界的なブレークスルーをもたらし、現在いくつかのグループ間で相対論的ジェット形成機構解明に向けた激しい競争が繰り広げられている。われわれは相対論的ジェット形成における磁場配位の重要性に注目してその解明を進めている。
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