宇宙のブラックホール候補天体は、いずれも激しい時間変動と複雑なスペクトル変動を示す。前年度に引き続き、ブラックホール降着流における様々な物理過程の研究を行い、以下の結果を得た。 (1)磁気タワージェットのシミュレーション 降着流の中に埋め込まれた弱い種磁場が、差動回転やMHD不安定により、どのように成長するかを、大局的3次元MHDシミュレーションにより調べた。弱いポロイダル磁場に貫かれた初期トーラスを最初に用意する。すると強い差動回転により、ポロイダル磁場は引き伸ばされてトロイダル(回転角方向)磁場を作り、そのトロイダル磁場はぎりぎり巻きに蓄積して磁気タワーを形成する。この結果、磁気圧力駆動型ジェットが自然に噴出することを世界で初めて示すことができた。 (2)磁気降着流からの多波長スペクトル 計算したMHDシミュレーションデータを基に、多波長スペクトルをモンテカルロ法により計算した。考慮したプロセスは、シンクロトロン放射とその自己吸収(電波領域)、こうしてできた低エネルギー光子の高温電子による逆コンプトン散乱、さらに熱制動輻射である。その結果、放射領域が内縁部に限られているという条件で、典型的な低光度ブラックホール降着流の観測スペクトルを再現することに成功した。さらに同じデータを用いて鉄ラインプロファイルの計算を実行中である。 (3)高温降着流における光子補足効果 降着流光度がエディントン光度に近づくと、降着流内部で作られた光子がそのままブラックホールにガスもろとも飲み込まれてしまう現象(光子補足)が起きる。われわれはダイナミクスは与えて2次元輻射輸送を解くというやり方で降着率増加に伴う降着流スペクトルの変化を計算し、光子捕捉が効くにつれ、スペクトルは最初はややハードに、その後、だんだんソフトになることを見いだした。こうして超高光度X線源(ULX)に見られた特異なスペクトルのふるまいを説明することに成功した。
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