宇宙のブラックホール候補天体は、いずれも激しい時間変動と複雑なスペクトル変動を示す。この3年間でブラックホール降着流に関連する様々な物理過程の研究を行い、以下の結果を得た。 (1)磁気タワージェットのシミュレーション 降着流の中に埋め込まれた弱い種磁場が、差動回転やMHD不安定により回転方向の(トロイダル)磁場を生み出し、それが中心部に蓄積して磁気タワーを形成し、磁気圧力駆動型ジェットが自然に噴出することを世界で初めて示した。さらにそのMHDシミュレーションデータを基に、多波長スペクトルをモンテカルロ法により計算し、放射領域が内縁部に限られているという条件で、典型的な低光度ブラックホール降着流の観測スペクトルを再現することに成功した。 (2)高温降着流における光子補足効果 降着流光度がエディントン光度に近づくと、降着流内部で作られた光子がそのままブラックホールにガスもろとも飲み込まれてしまう現象(光子補足)が起きる。われわれはダイナミクスは与えて2次元輻射輸送を解くというやり方で降着率増加に伴う降着流スペクトルの変化を計算し、光子捕捉が効くにつれ、スペクトルは最初はややハードに、その後、だんだんソフトになることを見いだした。こうして超高光度X線源(ULX)に見られた特異なスペクトルのふるまいを説明することに成功した。 (3)ニュートリノ冷却円盤の構造 ガンマ線バーストのブラックホール-コンパクト天体の合体シナリオに基づき、このとき形成されるニュートリノ冷却円盤の構造を詳しく調べた。その結果、移流項の評価による不定性を考慮すると、従来信じられていたよりはるかにニュートリノ冷却が卓越する場合があること、ニュートリノ冷却により、円盤が一時的に不安定化されること、ニュートリノ降着円盤の中では中性子のベータ崩壊がゆっくりと進行し、核γ線を放射することなどが新しく判明した。
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