モンテカルロ直接法(Direct Simulation Monte Carlo method=DSMC)を用いて、近接連星系の降着円盤の数値シミュレーションを行った。 降着円盤においては、気体からの輻射熱冷却が重要な役割を果たす。本研究では、それを近似的に扱うために、二種類の冷却法を試みた。1)粒子間の非弾性衝突、2)粒子の熱速度の強制的減少。いずれの方法でも冷却を模擬できることが分かったが、1の方式ではガスがグラニュラーになるので、2の方が適当であることが分かった。 質量比が1:1の近接連星系の場合を計算し、計算領域は質量降着星まわりの空間でL1点を含む3次元領域とした。L1点から気体粒子をタイムステップごとに一定数、温度ゼロで放出して、進化を追跡した。その結果、数公転周期の後に薄い降着円盤が得られた。放出粒子数の数により、降着円盤の形が変わることが分かった。放出粒子数が少ない場合は、降着円盤はほぼ円形をなしている。しかし放出粒子数が多いと、L1流は降着円盤に接するような形になる。つまり円盤の下限がL1流で制限された形になる。この結果は実は藤原たちによる有限体積法の結果と異なっている。その場合は降着円盤の縁が幾何学的に厚く、L1流は降着円盤に貫入するかたちになっている。DSMC計算では、冷却効果が十分に効いているようで、円盤が薄く、L1流は貫入しない。どちらが正しいかは、輻射冷却をきちんと考慮した計算をするまでは分からない。 もうひとつの相違点は、DSMCでは有限体積法で見られたような顕著な渦状衝撃波が見られなかった点である。その原因は、DSMCでは降着円盤の周辺部で粒子数が少なくなり、流れの連続性を保証できないからであろう。この点は改良を必要とする。
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