研究概要 |
平成13年度に調べたコンパクト天体降着ガスの特性:非平衡電離状態(とくに再結合状態)の基礎的研究をもとに,14年度は具体的にコンパクト天体や関連する現象への応用を進めた.成果は何れも学術雑誌に発表した. 1.コンパクト天体近傍の光電離ガスの構造について,中性子星連星からの観測結果をもとに研究を行った.13年度の研究論文において理論的にその重要性を指摘した,He II電離フロントの存在が予言どおりに観測で確かめられた.降着ガスでは密度が高くなるとHe II電離フロントが光学的に厚くなり,その内側では鉄などの重い元素も中性子星からの強いX線放射によってほぼ完全電離される一方,外側では低電離状態のイオンが存在しうる.降着ガスの密度がとくに高い場合,He II電離フロントは中性子星のごく近傍に生じる.そのような輻射の強い領域にもかかわらず,光学的に厚いフロントの形成によって低電離イオンが存在することが確認された. 2.光電離ガスの研究で得た非平衡電離放射過程の扱いをさらに発展させ,粒子加速などによって生じる非Maxwell分布への応用を試みた.統計的な粒子加速を想定し,初期に熱的分布(Maxwell分布)にあった粒子が,運動量空間での拡散によってどのような分布を形成するか理論的に調べた.熱的分布の高エネルギーテイルの粒子のうち,一部は次々と加速されて羃型のスペクトル(非熱的分布)を形成する一方,比較的エネルギーの低い粒子は熱的粒子とのCoulomb衝突のため加速領域に留まることができず,熱的分布との中間領域に準熱的分布を形成することが明らかになった.この結果をもとに熱的・準熱的・非熱的電子による非平衡放射の計算を行い,長く解明されずにいた銀河リッヂのX線放射について,その起源を整合的に説明する理論モデルを提出した.
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