高精度なアストロメトリの観測データが将来出てくることをにらんで、銀河系の力学構造に関わる以下のような理論的解析及びアストロメトリ観測衛星計画自体の検討を行った。 1.銀河の渦巻きの起源を探る:渦巻きの起源は、密度波説が有力ではあるが、果たして本当なのか、アストロメトリの情報から運動学的に判別する方法を考案するとともに、バー構造が存在した場合、それによって渦巻きが受ける力学的影響の解析を行った。特に渦巻きのピッチ角度が、バーポテンシャルによる影響と渦の巻き込みとのバランスで決まる可能性があることを解析した。 2.年周視差による距離評価の手法:年周視差の誤差がある程度大きい場合、年周視差から距離に直す際にバイアスが生じるため、注意が必要である。そこで、そのバイアスの効果、および統計的分散の効果をいくつかの方法で模擬カタログを用いて評価しバイアスが生じにくい新しい方法を開発した。 3.力学構造のモデルの構築:観測データと比べる理論的な力学構造のモデル(テンプレート)の準備を行った。特にハロー、ディスク、バルジの混在する力学系のモデルの構築を進めた。モデルの構築にあたっては、可積分な系をもとにして、対象となる系の作用変数を見つけ出す、torus constructionと呼ばれる方法の開発の検討を行った。 4.銀河系の形成史と密接に関連する宇宙初期での銀河やQSOの形成・進化に関して、準解析的方法を用いて解析を行った。銀河数分布などに関して、すばる望遠鏡を用いた観測データ等と比較することにより、銀河の形成進化モデルに制限を与えた。さらに、QSOの周りの環境を理論的に評価し、今後の観測データと比較することにより、QSOの進化モデルに制限を与えることが可能となった。 5.赤外線アストロメトリ観測衛星計画の検討を引き続き行い(ターゲットとするサイエンスの検討、観測領域の検討、観測方法・検出器の検討、衛星の検討)、仕様概要をまとめた。
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