本研究は、東北大学を中心に岐阜県神岡鉱山の地下実験室で進行中のニュートリノ検出実験カムランドの液体シンチレーターに含まれる微量放射性不純物の分析方法の開発を目的とし、これまでの問題点を探るとともに新たな純化方法を視野に入れ、1MeV以下の超低エネルギーニュートリノの実時間検出の実現を目指すものである。超純水による液抽出法と窒素パージ法で純化した液体シンチレーターに対して、誘導結合プラズマ質量分析法と中性子照射化法による分析を試みた。その結果、ウラン、トリウムに対して10^<-14>g/g台、カリウム40は10^<-15>g/g台の分析感度が得られるとともに、液体シンチレーターが原子炉ニュートリノ実験に必要な高純度であることがわかり、実験が開始された。分析感度の向上にはサンブル作成時の微量汚染の排除が鍵であることもわかった、カムランド実験データからウラン、トリウム系列のBi-Po崩壊連鎖を調べた結果、液体シンチレーターが^7Be太陽ニュートリノ検出に必要な1μBq/m^3をも満足する超高純度であることがわかった。これは液体シンチレーターの純化方法の有効性を示す大きな成果であり、カムランドによる原子炉ニュートリノ欠損現象の発見に大きく貢献した。一方、1MeV以下では、主に長寿命の鉛210とクリプトン85の崩壊による多量のバックグラウンドの存在が明らかとなった。このため本研究はこれらを除去し^7Be太陽ニュートリノの実時間検出を目指す実用的な純化方法の開発に重点を移し、試作機による高効率の稀ガス除去テスト、液抽出、吸着、フィルタリング、蒸留等による鉛元素除去の研究を進めた。その結果、今後の開発研究につながる貴重な基礎データが得られた。
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