研究概要 |
この数年のRHICによる重イオン衝突実験の結果、クォーク・グルオン・プラズマ状態の存在が次第に明らかになってきた。しかし、1万個近いハドロンが生成される複雑な現象から、その性質を定量的に解明するためには、格子シミュレーションにより、基礎理論であるQCDからの直接の情報と組み合わせた解析が不可欠である。関与するエネルギースケールの大きさから、u, d, sクォークの対生成・対消滅効果を含めたN_F=3QCDのシミュレーションが要求されるが、系統的な研究はほとんど成されていなかった。この研究では、クォーク・グルオン・プラズマの熱力学特性と相転移の性質を定量的に押さえることを目指して、N_F=3格子QCDの系統的研究を行う。平成15年度までの研究により、sクォークを含む場合に使える厳密な計算アルゴリズムとしてポリノミアルHMC法(PHMC法)が有効であることを示し、また、連続極限への外挿を行うためには、格子作用の改良が重要であることを示した。さらに、N_F=3QCDの場合の非摂動的な改良係数を決定した。これらの結果を受けて、PHMCアルゴリズムを使ったN_F=3QCDの本格的研究をゼロ温度で開始した。格子間隔として0.122fm,0.10fm,0.007fmの3点を、それぞれ16^3x32,20^3x40,28^3x56格子でシミュレーションする。平成16年度には、格子間隔0.122fm,0.10fmでのシミュレーションが完了した。0.007fmのシミュレーションも進められている。これまでの研究で、N_F=3格子QCDによりハドロン質量スペクトルを正しく再現できることが確認された。さらに、u, d, sクォークの対生成・対消滅効果を正しく取り入れることにより、軽いクォークの質量が20〜30%も小さくなることがわかり、現象論的にもインパクトを与えている。温度ゼロの場合の格子間隔、ハドロン質量スペクトル、等物理線の位置などを精密に決定することは、有限温度の物理量を定量的に研究するうえでも重要である。
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