研究概要 |
弦双対性の発見により,物理におけるさまざまな現象が幾何学的な解釈を持つことが明らかにされ,これを武器として従来の摂動論的弦理論では調べることの困難な領域で場の理論の様子を議論することが可能となった.特に,6次元のN=(1,0)型の超対称性とE8型大域対称性を持つ,全く新しい繰り込み群の固定点が見いだされた.この固定点は,M理論においてはM5ブレーンがM9ブレーンに近づいた場合,また,F理論では余次元1の有理楕円曲面が1点につぶれる場合に現れる.この固定点はテンソル多重項に含まれる自己双対場の存在のために、ラグランジアンによる普通の場の理論としての記述が不可能である. この固定点の理解には1次元的に広がった素励起「E-string」が本質的であると考えられている.4次元N=2ゲージ理論のSeiberg・Witten解においては,場の理論を結合定数によってパラメトライズされた族としてとらえその大域的な構造を調べることが大変有効であったので,同様の手法をE-stringの場合にも利用する.繰り込み群はモジュライ空間の各点に並んだ楕円曲線の変形族として,また,場の理論の双対性はファイバー構造に付随した被覆変換ととらえられ,また臨界点に伴う特異性は消滅輪体の存在と密接に関連する.加藤は粟田氏(名大数理),金銅氏(名大数理),斉藤氏(東大数理),清水氏(国際基督教大),土屋氏(名大数理)と共同で,有理楕円曲面の幾何学的構造と超対称ゲージ理論のダイナミカルな性質との関係を調べている.現在は特に,有理楕円曲面を対合付きのK3曲面と位置づけて位相的ゲージ理論(E-string)の分配関数の構造を詳細に調べている. 近年になって,位相的弦理論の分配関数の計算が,同変コホモロジーの局所化公式によりヤング図形の数え上げといった組み合わせ論的な計算に帰着されることが分かってきた.この計算規則は共形場理論の相関関数のそれによく似ており,その類似の起源を特にトーリック多様体の場合について探求している.
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