この3年間の研究の中心は、弦の場の理論によるDブレーンの解釈であった。 まず平成13年度はVSFT(真空弦の場の理論)のアイディアに沿って、開弦の場の理論のスター積に関する射影演算子とDブレーンの対応について検討を始め、主に境界共形場の理論の方法により各種の射影演算子の比較検討を行った。代表的なものとしては恒等演算子、sliver演算子、butterfly演算子などが研究されていたがブレーンの張力の観点からは恒等演算子が一番もっともらしいものであるという結論を得た。 次に平成14年度は、正規化を内包した弦の場の理論の構築に取りかかった。まず第1段階として開弦のスター積をより簡単化し非可換幾何学の基本的な概念であるMoyal積に帰着させる事を行った。このステップで上に述べた特異性が積の結合則め破れとして現れることを見た。無限自由度を使う限りこのアノマリーは取り去ることができないことも認識し、有限自由度への切断により正則化を行う定式化を構築した。この正則化が有効であることを、弦の質量殻外の振幅の計算やタキオン真空の具体的な構成などを通じて証明した。 最後に平成15年度では、開弦ではなく閉弦の場の理論のスター積を使って、Dブレーンを代数的に特徴づけるプロジェクトを始めた。Dブレーンは境界状態と呼ばれる閉弦の状態により最も正確に記述されることがわかっているが、この境界状態が閉弦のスター積に対してべき等関係式を満たすことを証明した。この関係式は非常に簡潔な非線形方程式であるのにもかかわらず、境界状態のみを解に持つという著しい性質を持っている。
|