本年度の最大の成果は、原子核の巨大共鳴状態に関する新しいガモフ・テラー和則を導いたことである。 ガモフ・テラー和則については、1963年に池田、藤井、藤田によって導かれた和則が有名である。原子核に許されるベータ遷移強度の上限は、原子核が中性子と陽子から成る非相対論的な多体系とすると、それらの数の差で与えられるというものである。1980年代に、原子核のスピン構造や中性子星における中間子凝縮と関連してその重要性が再認識され、和則を調べる実験が世界中で行われたが、その成立を実証することはできなかった。その後、実験技術と解析手法が進歩したのを受けて、1997年東大グループは再度実験を行い、その結果和則値が10%減少していることを発見した。減少の可能性については、1970年代多くの人によって指摘されていた。それはベータ遷移に核子の励起状態であるデルタが関与するためというものであった。従って、1997年以来、和則値の減少はデルタ状態によるものという理解が確立したと考えられ、その後はその前提の下に原子核のスピンに依存するランダウ・パラメータの決定や中間子凝縮の研究がなされてきた。 一方、1970年代に提唱された原子核に対する相対論的模型は、過去30年間の研究で現在ほぼ確立したと思われる。相対論的模型は原子核をディラック粒子と中間子から成る相対論的多体系とするものである。我々はこの模型によるガモフ・テラー遷移に対する相対論的な和則を導いた結果、従来の非相対論的な和則値の6%は反核子の励起に使われることを見出した。実験で発見された10%の減少の半分以上は反核子の存在によるものであることを示したのである。この結果は和則の理解にとって重要であるだけでなく、原子核の低エネルギー現象に反核子が関与することを示した初めての仕事である。この研究に関するプレプリントが完成し、ドィツで5月に開かれる国際会議で招待講演を行う予定である。
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