本年度は、昨年度に引き続き、我々が始めて導いたガモフ・テラー巨大共鳴状態に関連する相対論的なガモフ・テラー和則の研究を行った。 原子核のベータ・プラス遷移強度の和(S-)とベータ・プラス遷移の和(S+)の差S=(S-)-(S+)には模型に依らない上限があり、その値は原子核の中性子数と陽子数の差で与えられる。この和則は、1960年代から非相対論的模型で詳しく研究されており、その結果、ほぼ(S+)=0、即ちS=(S-)と考えられていた。一方、ベータ・マイナスに関する実験値は、1997年、東京大学のグループによる巨大共鳴状態の詳しい解析から、和則値の90%にしか満たないことが明らかになった。この問題は模型に依らない和則に関することであるために、長い間原子核の記述に用いられてきた非相対論的な原子核模型にとって深刻な問題となった。この困難を解決する方法が、現在二つ提案されている。 一つは、原子核は中性子と陽子から成るとする非相対論的模型に、核子の励起状態Δを導入するものである。しかし、この方法では、どの程度Δの寄与があるかは、確定困難と思われるパラメータに依存し、10%を説明できるかどうかは現在のところ不明である。 もう一つの方法は、我々が示した非相対論的模型を相対論的に拡張するものである。相対論的な和則を導くことにより、和則値の一部は核子-反核子状態の励起が担い、その部分は東京大学グループの実験には関与しないことを示した。核子-反核子励起状態が担う部分は6〜12%であり、実験を良く再現する。 今年度、我々はさらに相対論的乱雑位相近似により、多体相関と和則の構造を調べ多体相関があっても上述の結論が変わらないこと、また相対論的模型でも、非相対論的模型で有名な乱雑位相近似に関するThoulessの定理が成立することを解析的に示した。
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