本年度の研究の主な目的は次の2点であった。 1.相対論的重イオン反応で発見された2重巨大共鳴状態の構造を、和則を用いて理解する。 2.巨大共鳴状態を通して、原子核の相対論的模型と非相対論的模型の違いを明らかにする。 目的1については、計画通り、この分野の理論的研究で中心的な役割を果たしているミラノのボルテニィオン教授と共同研究を行った。2重巨大共鳴状態のみならず、3重巨大共鳴状態に関する新しい和則、さらに、異なる多重共鳴状態の励起エネルギーと遷移強度の間に、模型に依らず成立しなければならない新しい関係式を導出した。 目的2については、我々が昨年明らかにした相対論的模型の決定的な問題点を解決することに努めた。我々を含め、アメリカ、ドイツ、フランス等のグループが、過去数年間にわたって研究してきた巨大共鳴状態に対する相対論的模型は、現象論的には巨大共鳴状態をよく説明するものの、理論的には大きな問題を抱えている。それは、この模型が、和則を満たすためには、負の励起強度を必要とする点である。我々は、千葉大学の倉沢治樹教授とともに、その原因が発散項の取り扱いに問題があることを明らかにし、正しい取り扱いの例を、ガモフ・テラー遷移に関する和則について示した。この結果は、今まで数年間行われてきた原子核の相対論的な模型による数多くの計算結果を全て見直す必要があることを要求する重要なものとなった。成果は既に公表され、現在レビューの投稿を依頼されている。本計画の最終年度におけるこの成果は、目的2の研究を次期計画へ引き継ぐための良い区切りとなった。
|