本研究計画は、初期宇宙の進化史を、観測データから出発する還元的手法と基礎物理学理論に基づく原理的な考察による双方向から明らかにすることを目的に、2000年秋に企画立案された。その主たる目的は、ダークマター・ダークエネルギーという宇宙のエネルギー密度の二大構成要素の正体に迫ることとともに、宇宙論的精細観測データが得られた際に、それを初期宇宙の理論に還元する方法を開発することにあった。 研究成果として、まずダークマターについては、コールドダークマターの二大候補の一つであるアキシオンがどれだけ生成するか、アキシオンストリングの宇宙論的進化の大規模な数値シミュレーションを行うとともに、その新しい解析法を提唱し、それによって正しい生成量を求めることに初めて成功した。 ダークエネルギーの起源としては、宇宙の量子状態に関する考察により、このような微小な量を勝手に導入するにとなく観測値を自然に説明する理論の構築に成功した。一般に縮退した摂動的真空を持つ理論では、真の真空は摂動的真空の重ね合わせで表される。然るにもしわれわれの宇宙が摂動的真空のある状態にあるとすると、これは真の真空よりも極僅かだが大きなエネルギー密度を持つことになる。その値は摂動的真空間を結ぶインスタントンの作用の-1倍をべき指数に持つ指数関数に比例する。したがって作用が十分大きければ観測されている小さな宇宙項の値を説明できるのである。 また、宇宙背景輻射の非等方性の角度相関から初期曲率揺らぎのスペクトルを再現する手法を提唱し、WMAPの初年度データに応用したところ、細かな振動構造を持ったスペクトルが再現された。この多くは観測誤差によるものだと思われるが、モンテカルロ計算の結果、一部にはスケール不変スペクトルからの有意なズレがあることを見出し、初期揺らぎが細かな構造を持っていた可能性が高いことを明らかにした。 このほか、WMAPの観測データを説明するインフレーションモデルの構築など数々の研究を行った。 以上のように大きな研究成果を挙げることができた。
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