平成14年度の研究実績は次の通りである: 1)核子のクォーク内部構造を考慮し、核子から成る多体系(核物質)の高密度領域での振る舞いについて研究した。(発表リストNo.1.)最近、中性子星内部などの高密度核物質の状態から、カラー超伝導の性質をもつクォーク物質への相転移が起こるかどうかについての研究は活発に行われている。平成13年度の研究で作り上げた核物質の状態方程式は核子のクォーク内部構造の影響を含んでいるので、それに基づいてクォーク物質への相転移について研究することが妥当である。その研究の結果として、現在我々利用している相対論的なカイラルクォーク模型の枠組みで通常のクォーク物質への相転が起こらないが、カラー超伝導の性質をもつクォーク物質への相転移が起こることが示された。 2)電子・原子核の深非弾性散乱実験で測定された構造関数について研究した。核物質内の核子の構造関数は単独の核子の構造関数と異なっていることが、有名なEMC(European Muon Collaboration効果が示している。平成13年度の研究で作り上げた核子の内部構造を考慮する核物質の状態方程式を使ってEMC効果についての研究を行った。そのために物質内のクォークの運動量分布を計算し、クォーク数および運動量の和則が成り立つ理論の枠組みを設定した。その研究の結果として、原子核内のスカラーおよびベクトル型の平均場は核子内のクォークと結合することによってクォークの運動量分布は単独の核子の場合よりも柔らかくなっていることが示し、またそれに基づいてEMC効果の記述は可能であることが分かった。
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