研究概要 |
平成13年度から平成15年度までに行われた研究成果は次の通りである: 1)核子中のクォーク相関および核子の構造関数(論文リストNo.1):核子を相対論的な3クォーク束縛状態と見なし、クォーク間の相互作用(相関)について研究した。相関として、scalar diquarkおよびaxial vector diquarkチャンネルを取り入れ、核子の波動関数を作り上げた。更にパイ中間子の雲も加え、核子の静的性質(磁気能率、スピン演算子の期待値、核子・中間子の結合定数など)と核子の構造関数を計算した。それらの物理量から、上記の相関チャンネルおよびパイ中間子チャンネルの確率についての情報を得ることができた。 2)核物質およびクォーク物質の状態方程式(論文リストNo.2,3):多体系における平均場近似に基づき、上記のように単独の核子のクォーク内部構造を考慮し、核物質の状態方程式を作り上げた。南部・Jona-Lasinio模型のように線形カイラル対象性をもつ有効理論の場合、核物質の飽和性は再現でいないことが知られていたが、この研究で閉じ込めの効果を現象論的に考慮することにより安定な多体状態を記述することに成功した。更に、物質の高密度領域での振る舞いを調べるためにクォーク物質の状態方程式も作り上げ、核物質からクォーク物質への相転移が起こるための条件などについて研究した。特に高密度のクォーク物質はカラー超伝導状態になり、その効果が転移の密度などに強い影響を与えることを指摘した。 3)原子核の構造関数およびEMC効果(論文リストNo.4,5):上記の1)で作り上げた単独の核子の状態と2)で作り上げた核物質の状態を合わせ、物質中に束縛された核子の構造関数について研究した。そのときに、構造関数における媒質効果について詳しく調べ、特に物質中の平均ベクターポテンシャルは重要な役割を果たすことが分かった。つまり、平均ベクターポテンシャルの影響で物質中の核子内のクォーク運動量分布は狭くなり、Bjorken x>0.3の領域で核子の構造関数は単独の核子の場合よりも小さくなり、実験で観測されたEMC効果は説明できた。なお、この理論の枠組みでクォークの和側(個数および運動量の和側)は成り立っていることも確認した。 4)原子核における和側(論文リストNo.6):原子核におけるガモフ・テラー和側(Gamow-Teller sum rule)および双曲子和側(E1 sum rule)についての研究も行われた。
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