1.クーロン力を含む低エネルギー3核子散乱問題の研究 少数核子系では、短距離力である核力と、長距離力であるクーロン力とが相互作用として働いている。量子力学の散乱理論は、通常、短距離力に対して定式化がなされていて、クーロン力が作用する場合には適用できない。これは、一番簡単な2体問題でも起きていて、2体散乱を記述する積分方程式であるLippmann-Schwinger方程式は、クーロン力が働く場合にはそのまま適用することはできない。しかしながら、陽子-陽子散乱のように、核力とクーロン力とが働く2体問題では、純粋2体クーロン問題の解析解が知られていることを活用して、短距離力だけが作用する場合とほぼ同様に数値計算を遂行できる事が知られている。 一方、3体以上の量子系では、純粋クーロン問題の解析解は知られていないので、クーロン力が働く少数核子系の問題を解くことは容易ではない。我々は、「補助ポテンシャルの方法」と呼ばれる方法を用いて、低エネルギー陽子重陽子散乱の高精度計算コードの開発に成功した。このことにより、低エネルギーでの陽子-重陽子散乱の解析を、クーロン力の取り扱いの曖昧さ無しに行うことが可能になった。 2.低エネルギー3核子散乱における荷電対称性の破れの研究 核力における荷電対称性の破れ(CSB)の研究には、中性子-中性子散乱実験が現実問題として不可能であることから、中性子-重陽子散乱と陽子-重陽子散乱との比較が必要である。我々は、クーロン力を正しく取り入れた3体計算を用いて、陽子-重陽子散乱と中性子-重陽子散乱のベクトル分解能を比較し、電磁気力や「ρ中間子-ω中間子混合」過程から生じるスピンに依存するCSB力の効果を吟味した。
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