弦理論は重力を含む素粒子の統一理論の最も有望な候補であるが、通常の点粒子の場の理論と比べるとその定式化が完成されているとはいえない。この理論の摂動論はほぼ完成されているが、弦の場の理論にあたるものがまだよくわかっていない。そのため、場の理論の形式によって明らかになるはずの理論のもつ対称性等がよくわかっておらず、この理論を応用する際に非常な困難が生じる。このような問題を研究するためのアプローチとして行列模型がある。この模型では理論の基本的自由度として弦でなく行列を用い、弦理論の通常のアプローチでは見えない側面を明らかにしようとするものである。この研究ではこの行列模型を次に述べる2つの側面から研究した。 ひとつは膜の理論の定式化である。タイプIIA超弦理論は強結合極限でM理論と呼ばれる理論で記述されるということが提案されている。M理論は膜の理論として記述することができると予想されている。一方、膜の理論は行列模型を使って記述することが出来る。この研究では行列模型による記述を使って、膜の世界体積上の基本的対称性について議論した。 もうひとつは、非臨界弦の理論である。非臨界弦の理論とは1次元以下の時空における弦の理論であり、通常の弦理論のおもちゃの模型として研究されてきた。この理論は行列模型の手法を使って厳密に解くことが出来る。特に、この理論を研究することで、弦理論における非摂動効果の一般的な性質を明らかにすることが出来る。非臨界弦の理論における非摂動効果はD-インスタントンと呼ばれるインスタントンがもたらすものであるということがわかっていた。この研究ではこのインスタントンの化学ポテンシャルの値を初めて計算し、この値が正則化の方法によらないユニヴァーサルなものであることを示した。
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