今後の高エネルギー物理実験では、スイスCERN研究所で建設中のLHC加速器やKEKが東海村に建設中のJ-PARC加速器等の大強度ビーム下や、宇宙空間での実験等、放射線レベルの高い環境での実験の重要度が増すと考えられている。一方、測定器はますます多チャンネル化、高度化する必要が有ることから、LSI技術を駆使した読み出しエレクトロニクスが欠かせない。しかしながら、通常のLSIは必ずしもすべてが放射線環境下で使用できるわけではないので、LSIの耐放射線性に関する研究が必要とされている。 本研究では、放射線によるLSI回路への影響を調べ、高価な特殊LSIプロセスを使わずに、レイアウトや回路の工夫により、商用CMOSプロセスで製造したLSIが、放射線環境下で使用できるようにすることを目指した研究である。 具体的にはLHC実験のひとつであるATLAS実験の高精度ミューオン飛跡検出器の時間測定用LSI(AMT : Atlas Muon TDC)の耐放射線性をCo^<60>ガンマー線やサイクロトロンからの陽子線を用いて検証した。このAMTチップは我々がATLAS実験用に特別に開発したもので、0.3umのCMOSプロセスを用い、時間分解能300ps以下で、不感時間なしに連続的に時間測定が行えるものである。 AMTチップはLHC実験環境下での使用に耐える事が実証され、現在量産され検出器に組み込まれている所である。またこの実績から、2012年にESA(欧州宇宙機関)より打ち上げ予定の、水星探査衛星への搭載も検討されている。
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