研究課題
基盤研究(C)
昨年度までの理論研究と天文観測・物理実験とを総合して、精度の高い核宇宙年代計の構築を行った。理論モデルと金属欠乏星に検出された放射性重元素量の観測結果とを詳細に比較検討した結果、Th-Eu年代計に代わってU-Th年代計の精度が高いことを見つけた。宇宙核年代計を構成する放射性重元素は、大質量星の終焉における超新星爆発における速い中性子捕獲反応(R-プロセス)と、小中質量晩期型AGB星における遅い中性子捕獲反応(S-プロセス)で作られる。これらの元素合成過程の物理条件が、大型科学計算機を駆使した爆発流体のシミュレーションおよび元素合成過程の理論数値シミュレーションで明らかになった。宇宙核年代計に用いる一連のR-プロセス元素の初期組成量の理論計算を精度よく行うには、軽元素領域に関しては安定核および中性子過剰不安定核に対する中性子およびアルファ粒子誘起反応率、中重元素領域関しては中性子過剰不安定核に対する中性子誘起反応率が必要である。これらの実験諸量は理化学研究所や東京大学原子核科学センターをはじめとする世界各国の原子核・素粒子実験施設における原子核反応構造実験から取得した。測定できない原子核データと、特に重力崩壊型超新星爆発で重要となるニュートリノ・原子核反応断面積は、素粒子・原子核理論を用いて理論的に計算されたものを用いた。これにより、金属欠乏星の元素組成と太陽系組成との類似性(ユニバーサリティー)を用いる従来の方法に比べて、より信頼度の高い放射性元素の初期組成比を理論的に与えることができるようになった。銀河の化学的・動力学的進化のモデルに組み込み、放射性重元素量の時間発展を理論的に予測した。理論計算結果を、すばる望遠鏡による観測結果を用いて、銀河ハロー第一世代星でのR-プロセス元素宇宙核年代計から銀河年齢の推定に使い、宇宙論パラメータから導いた宇宙年齢の推定結果との整合性を詳細に検討し、我が銀河の第一世代星における放射性重元素量の消長を理論的に予測した。同時に、R-プロセスを宇宙核年代計として用いた銀河年齢の推定結果と、宇宙論パラメータから導いた宇宙年齢の推定結果との整合性を研究し、ビッグバン元素合成理論、宇宙背景放射ゆらぎのスペクトル観測、Ia型超新星の分布観測との詳細なる比較検討を行って、矛盾のない宇宙論モデルの構築を試みた。
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