半導体表面に吸着した有限領域金属原子層に生ずる低次元電子励起

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13640315
• 研究機関: 岩手大学
• 研究代表者: 稲岡 毅 岩手大学, 工学部, 助教授 (40184709)
• 研究分担者: 長尾 忠昭 東北大学, 金属材料研究所, 助教授 (40267456)
• キーワード: 半導体表面 / 金属原子層 / 2次元電子励起 / 2次元プラズモン / エネルギー分散 / エネルギー損失強度 / 交換・相関効果 / 固体表面電子分光

研究概要

半導体の誘電媒質基盤の上に金属単原子層が吸着した系では、有効密度の高い理想的仁2次元伝導電子系が形成され、とくに吸着領域が有限であるとき、有限領域の層状伝導電子系が実現される。このような電子系の励起は、低次元性、サイズ依存性、及び境界付近に局在する縁励起の存在という興味深い問題を含んでいる。本研究では、高分解能電子エネルギー損失分光(HREELS)を用いた実験的研究との共同のもとに、このような有限領域の層状電子系に生ずる低次元電子励起の物性を理論的に解明する。実質的に無限領域の場合について、最近HREELSを用いて、Si(111)表面にAgを単原子層吸着させた系に生ずる2次元プラズモン(2DPL)がきわめて明瞭に測定された。
有限領域の電子系を研究するための基礎として、初年度は無限領域の上記のAg吸着系に生ずる2次元電子励起を解析した。電子間の交換・相関の効果を考慮する場合としない場合のそれぞれについて、2DPLのエネルギー分散、エネルギー損失強度を計算して比較した。その結果、上記の系の2次元電子系は、かなり高い有効密度を持っているにもかかわらず、励起モードの波数が大きくなるにつれて交換・相関の効果が顕著に現れることが分かった。このことは低次元性に起因すると考えられる。交換・相関は、波数が大きくなるにつれて2DFLのエネルギーを低下させる方向に効き、また、電子-正孔対励起により2DPLが減衰、消滅する波数qcを小さくする。qcに至るまでの幅広い波数領域で、HREELSの実験で得られている2DPLのエネルギー分散、及び2DPLによるエネルギー損失強度の波数依存性を、ほぼ定量的に説明することができた。
なお、上記の研究と平行して、HREELSを有効に行うための運動学的解析を行い、高い波数分解能で幅広い波数領域の励起モードを調べるために有利な条件を調べた。

研究成果

• [文献書誌] Takeshi INAOKA: "Kinematic Analysis of a Dispersion Region Probed in Reflection Electron Energy-Loss Spectroscopy"Surface Science. 493・(1-3). 687-691 (2001)
• [文献書誌] 稲岡 毅: "高分解能電子エネルギー損失分光におけるプローブ分散領域の運動学的解析"真空. 45・3(印刷中). (2002)
• [文献書誌] T.NAGAO, T.HILDEBRANDT, M.HENZLER, S.HASEGAWA: "Dispersion and Damping of a Two-Dimensional Plasmon in a Metallic Surface-State Band"Physical Review Letters. 86・25. 5747-5750 (2001)
• [文献書誌] T.NAGAO, T.HILDEBRANDT, M.HENZLER, S.HASEGAWA: "Two-Dimensional Plasmon in a Surface-State Band"Surface Science. 493・(1-3). 680-686 (2001)
• [文献書誌] M.YAMAGUCHI, T.INAOKA, M.HASEGAWA: "Electronic Excitations in a Nonparabolic Conduction Band of an n-Type Narrow-Gap Semiconductor"Physical Review B. 65・8. 85207-85215 (2002)
• [文献書誌] Takeshi INAOKA: "Size-Dependent Evolution of Conduction-Electron Excitations in Small Spherical Particles : in "Clusters and Nanomaterials", eds. Y. KAWAZOE et al."Springer-Verlag. 323-339 (2002)